め も 。

推しの思い出

動き出した3月

ネット配信を見てから彼をより好きになってしまった私。

さあ、大変。

シングルCD発売記念イベントが開催。

お渡し会ということで、直接お話が出来てしまうことに。

 

メンバーは5人だけれど、このイベントは3人のみの参加だった。

友達と一緒に行ったけれど、私が彼に強い気持ちを抱き始めていることは、誰にも言っていない。

言えない。

いや、そもそも私は認めないんだ。

そう言っていられるのもあと少しということをこの時の私は知らない。

 

イベントが始まる。

登場した3人に会場は大盛り上がりで、私の心臓も高鳴り続ける。

近い。

まだステージとの距離はあるのに近い。

これからもっと近付くことになるのにすでに心臓は壊れそうだった。

 

そしてついにその時。

手紙を何回か出して、Twitterでもリプライをよく送っていて、配信でも何度かコメントと名前を読まれていた私。

自己紹介のつもりだった。

でも、頭の片隅にあったらいいな。これから先、聞いたことあるなって思ってくれたらいいな、なんて下心ありありで、目の前に立つ彼に自分の名前を伝えた。

「ああっ!いつもありがとうございます!」

途端に頭の中は真っ白。

まさか、覚えてくれているなんて。

 

もしかしたら本当は覚えているわけではなくて、ただのリップサービスかもしれない。

名前を伝えてきたってことは…って考えたのかもしれない。

でも、オタクって単純だから。

思い込みの激しい生き物だから。

その一言で幸せになるんです。

ただ、そのおかげで本当に何も話せなくなってしまったので多大なご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げる。

 

あの時「ああっ!」って言った彼の顔は未だに覚えているし、多分これからも忘れない。

大切な思い出になりました。

 

 

数週間後、もう一度チャンスが舞い降りた。

あるイベントで、お渡し会の参加券が当たる抽選が行われた。

当たれば、バンドメンバーの中から1人好きなメンバーを選べる。

結果を言うと、抽選は当たった。

問題は誰を選ぶかということ。

ここで忘れてはいけないのが、私は箱推しを貫いていること。このバンドを知るきっかけになったメンバーがいること。私が彼に対する気持ちがとても大きくなっていることを誰も知らないこと。

色々なことを考えながら、でもやっぱり、あの日全く話せなかった記憶が濃く残っていた。

当たる前に悶々と考えていたけれど、当たってからは早かった。

私は、彼のお渡し会に参加することにした。

 

心臓の高鳴り、手の震え、頭の働かなさ、もろもろ酷かったけれど。

大丈夫。

あの日よりかは少しだけマシだ。

私は今度こそ期待を込めて彼に挨拶と、やっぱり名前を伝えた。

「いつも来てくれてありがとうございます!」

大好きな笑顔と、嬉しい言葉。

ありがとうはこちらのセリフです。

 

でも、きっとこの頃から、私はさらなる期待を寄せ、自分のなりたくなかったオタクへの道を進み始めた。

「認知」という言葉が良くも悪くも私を縛り付けることになる。

芽生える2月

会えない日々が続き、少しずつ気持ちが治まってきたかなという頃。

バンドの1stシングルが発売された。

 

今まで、色々な人を応援してきた。

基本的にアーティストやアイドルなど、CDを出している人ばかりだった。

1タイトルにつき、購入しても初回盤と通常盤をそれぞれ1枚ずつ。

そんな私も、このバンドに関しては違ったようで。

知らぬ間に増え、積み上がるCDの山。

新しくデビューしたばかりのバンドだから、周りに宣伝しないとだから、それを免罪符にしていたところはある。

現に、沢山あった山は姿を消し、それぞれが友達の元へと旅立っていった。

 

落ち着いていた気持ちも、そんなこともありまた燃え上がり。

かと思えば、新たにネット配信の番組が始まった。

彼と、もう1人のメンバーで。

今までライブをしている姿くらいしか知ることが出来なかった彼のパーソナルな部分をこの配信ではたくさん知ることが出来た。

思っていたよりもお喋りなこと、明るいこと、よく笑うこと、好きなもの、好きなこと、苦手なこと。

色々なことを知っていくうちに、どんどん好きな気持ちが増していく。

ああ、これはハマってしまう。

気付いた時にはきっと手遅れ。

コメントを送ると読んでもらえて、名前も呼んでもらえる。

初めて名前を呼ばれたときはすごくドキドキした。

いや、その後も呼ばれるたびにドキドキしてるけれど。

 

私はこっそりこの配信に名前を付けた。

「シャブ」

動き出した12月

 

バンドの3回目のライブが行われた。

ここでようやくメンバーが揃う。

そして、本格的に歩き出すことに。

 

ライブが始まる前から密かに感じていた。

きっと今日は彼に釘付けになると。

平等になんて出来ないだろうと。

 

いざ入場してみると最前列で。

割とセンターポジションで見ることが出来た。

今までもこれからもこんなにいい場所で拝見できることは二度とないだろうなと思う。

 

登場から退場するまで、きっとほとんど彼を見ていたと思う。

もちろん目の前に他のメンバーが来たときや、見せ場があるときにはそっちを見ていたけど。

無意識のうちに彼を追っていた。

どんどんハマっていくのが分かった。

 

終演後にはまたお見送りが。

9月同様、優しく温かく対応をしてくれた。

真っ直ぐ向けられる視線に胸と顔が熱くなっていた。

ライブの後だからまだ気分が高まっているんだと、意味もなく気持ちを誤魔化したり。

 

会場を出る時、出入り口を彩っていた祝い花が目に入る。

彼宛の花はなかった。

何故だか申し訳ない気持ちが湧き、それと同時に次のライブはきっと私が用意することになるんだろうなと直感的に感じた。

 

平等に。

一番は作らない。

 

この気持ちは、それでも未だ胸の中に抱いていた。

 

出会いの9月

2018年9月

たぶんあの日から全てが始まったし、全てが変わっていったんだと思う。

今思えば、だけど。

 

まだ始まったばかりのバンド。

メンバーはまだ全員揃っていなくて。

これからピースがハマっていくんだろうな、という段階での二度目のライブ。

ただ推しを見に行った最初のライブとは違って、バンドそのものが大好きになり、今後の活動にも期待を寄せていた。

もちろん、この日に加入が発表されるであろうメンバーのことも、等しく応援していくつもりで、どんな人がくるのかワクワクしていた。

 

開幕。

まずは3人でのパフォーマンス。

最初のライブよりもさらにレベルが上がっていて、それぞれに楽しむ余裕が出てきたんだなということが分かる。

さらに楽しく、熱くなったライブを堪能。

数曲披露した後、ステージが暗転し、袖から登場する1人の姿。

 

ああ。

それまで名前どころか存在すら知らなかった人にここまで熱くなれるのか。

たしかに大盛況のライブの中、興奮している状態で、あんなにも衝撃的で暴力にも似た歌唱力をぶつけられたら、その場にいた人なら誰もが夢中になっただろう。

でも、私にとっては異例だった。

それだけ、衝撃の出会いだった。

まあ、彼のルックスが整っていたのも要因の一つではある。

 

ライブ中の彼はすごかった。

場内の観客全てと目を合わせるつもりなのではないかと思うほど、ひとりひとりを見て歌っていた。

あまりにも真っ直ぐ見てくるものだから、ステージとの距離も忘れ、すぐそこにいるように感じて、私のために歌っているのかと思い込んでしまいそうになる。

後にリアコ製造機とファンの間で話題になるけれど、それはまた別の話。

 

ルックスもバツグンに良くて、ファンサービスも旺盛で、熱い眼差しを向けてくれる。

そして何より、歌が上手い。

トークはすごく上手!とは言えないけれど、秘めた熱い思いはビンビン伝わってくるし、加入したてでこの場に慣れていないながらも、懸命に話している姿に微笑ましさすら感じた。

この先も応援していきたいなあと、思った。

 

終演後、来場者へのお見送りがあった。

そこでも真っ直ぐに目を見てお礼を言ってくれて、暑さで汗だくになった汚いオタクに嫌な顔一つ見せず(当たり前か)、熱く、でも爽やかに対応してくれた。

他のメンバーも例に漏れず。

感謝しかない。

 

しかし頑固な私。

箱推しを貫くと、最初のライブが終わってすぐに決めていた。

全員を平等に。

だから、誰かを1番に応援するなんて、順列を作るなんて想像もしてなかった。

想像をしたくなかった。